セキュア・バンク株式会社(本社:東京都、以下「SecureBank」)は、2026年8月24日に発表した独自Cyber AI研究の続報として、研究を第3段階へ進めたことをお知らせします。
第2弾では、一度きりの回答で終わるAIから、実行結果を観測して次の一手に反映し、条件を変えて再挑戦するAIへと研究を進めました。しかし、AIが再挑戦できるようになると、次の論点が現れます。その繰り返しに、新しい情報が生まれているのかという問いです。
今回はこの問いに対して、再挑戦すべき失敗と、探索方法を変えるべき停滞をどう区別するかという研究テーマに取り組みました。具体的には、CyberGymの1課題で脆弱性の原因分析から検証の実行までを一連の処理としてつなぎ、あわせて実案件4ケースのAI実行ログを事後に解析して、AIの反復行動に新しい情報が生まれているかを評価するための初期技術検証(Information Gain Control Phase 1)を実施しています。
今回の研究成果
2026年8月時点で、CyberGymの課題と実案件のAI実行ログを対象に実施・確認した内容です。
CyberGym
- 対象
- CyberGymの1課題
- 到達範囲
- 攻撃推論チェーンを接続
- 確認した事象
- 脆弱性の再現まで到達
- 公開範囲
- 課題・対象の識別情報は非公開
実案件ログ解析(実行後の事後評価)
- 解析対象
- 実案件4ケースのAI実行ログ
- うち1ケース
- Evidence Novelty 97.3%
- 別の1ケース
- LOW_GAIN+STAGNATION 12/17
- 同じケース
- POLICY_VIOLATION候補 12 Round
Control Layer
- 研究段階
- Phase 1(Offline Evaluation)
- 評価対象
- 実行が終わったあとのログ
- 実行への自動介入
- 未実装
- Information Gain Control Phase 1
- 研究上の受入条件:PASS
図1
第1弾から今回までの研究フェーズの進展
第1弾では「学習工程を自社で回せること」、第2弾では「実行結果を踏まえて再挑戦できること」までを確認しました。今回は、その再挑戦に新しい情報が生まれているかを事後に評価する段階へ研究を進めています。
- 第1弾2026年8月19日 発表
学習工程を自社で回せるかの検証
- Open Weightモデルのローカル実行
- 教師データ作成
- LoRA追加学習
- CyberGymによる実技評価
- 確認できたこと
- 専用GPUを搭載しないノートPC環境で学習工程を自社で回せること
- 未確認のこと
- 追加学習によるCyber能力の向上(未確認)
- 第2弾2026年8月24日 発表
実行結果を踏まえて再挑戦する仕組みの初期検証
- PoC候補の実行
- 実行結果の観測
- 結果を次の入力へフィードバック
- 条件を変更して再試行
- 確認できたこと
- 1課題で「初回失敗 → 再試行 → 成功」を確認し、再試行の仕組みが機能すること
- 未確認のこと
- 課題の解決率・Base Modelとの性能差(未確認)
- 今回(第3弾)2026年8月31日 発表
「有益な再検証」と「情報を生まない反復」を区別する制御の初期検証
- 攻撃推論チェーンの接続(CyberGym 1課題)
- 実案件4ケースのAI実行ログのOffline Evaluation
- Information Gain Control Phase 1の受入条件を確認
- 確認できたこと
- 実行ログを事後に分類し、有益な再検証と情報を生まない反復を区別できること
- 未確認のこと
- 実行中のAIへの自動介入・解決率の改善(いずれも未実装・未検証)
第2弾で残した問い――再挑戦できるようになった、では何を繰り返すべきか
2026年8月24日に公開したプレスリリース「セキュア・バンク、独自Cyber AI研究を次の段階へ ― 実行結果を踏まえて再挑戦する仕組みを初期検証」では、実行結果を次の試行へ戻し、条件を変えて再挑戦できる構成を初期検証しました。
そこで確認できたのは、次の範囲です。
- PoC候補の実行
- 実行結果の観測
- 結果を次の入力へ反映
- 条件を変更して再試行
ここで用いているHarnessとは、AIとTool、評価環境をつなぎ、実行を制御する仕組みにあたるプログラムです。第2弾では、このHarnessが実行結果を次の試行へ戻せることまでを確認しました。
一方で、再挑戦できる構成にすると、別の問題が見えてきます。AIは失敗しても繰り返し挑戦しますが、その繰り返しが新しい情報を生んでいるのか、それとも同じ場所を回っているだけなのかを、仕組み自体は区別していないという点です。
今回は、この区別を扱う研究へ進みました。AIが賢くなったかどうかではなく、AIが繰り返している行動に意味があるのかを評価するための研究です。
仮説が間違っていたのではなく、Toolが仮説を実現できていなかった
今回、CyberGymの1課題において、攻撃推論チェーン――脆弱性の原因を分析し、検証方法を組み立て、実行結果までつなげる一連の処理――を最後までつなぎ、脆弱性の再現まで到達しました。
この課題では、直前の試行が失敗しています。失敗した版では、入力の終端に関する仮説自体は正しかったにもかかわらず、Tool側が意図した入力条件を実際には作れていませんでした。
- 入力の終端に関する仮説を立てる
- Toolが意図した入力条件を作れていない
- 問題を再現できない
そこで、脆弱性を含む版と修正済みの版のコード差分(Patch Differential)を分析し、仮説そのものではなく、仮説を実際の入力へ変換するTool側に問題があると判断しました。
- 脆弱性を含む版と修正済みの版のコード差分を分析
- 仮説ではなくTool側の実現方法に問題があると判断
一般的な表現に言い換えると、AIの考え方が間違っていたのではなく、その考えを実際の入力へ変換するTool側に問題があったということです。
この判断にもとづき、Toolが入力を組み立てる方法を検証方針(Strategy)ごとに変更したうえで再検証したところ、意図した入力条件を実現でき、AddressSanitizerによってheap-buffer-overflowの発生を確認するところまで到達しました。
- Toolの入力の組み立て方をStrategyごとに変更
- 意図した入力条件を実現
- AddressSanitizerでheap-buffer-overflowを確認
図2
攻撃推論チェーン
脆弱性の原因を分析し、検証方法を組み立て、実行結果までをつなげる一連の処理です。今回はCyberGymの1課題で、この流れが最後までつながることを確認しました。
Execution Path
対象ソフトウェアのどの処理経路を通って問題が発生するかを整理する
Root Cause
問題が発生する根本原因を特定する
Patch Differential
脆弱性を含む版と修正済みの版のコード差分から、原因や成立条件を絞り込む
Trigger Hypothesis
問題を再現するために必要な条件について仮説を立てる
Strategy
立てた仮説を確かめるための検証方針を決める
Tool
検証方針を、実際に実行できる形へ変換する
Execution
変換した内容を実際に実行する
Result
実行結果を観測し、仮説が正しかったかを確認する
今回この流れを最後まで確認できたのは、CyberGymの1課題です。対象となったソフトウェアや課題の識別情報、再現に必要な条件は、悪用防止の観点から公開していません。
同じ行動を繰り返している=AIが停滞している、とは限らない
あわせて今回は、実案件4ケースのAI実行ログを解析しました。実際の案件でAIがどのように検証を繰り返していたかを、実行が終わったあとのログから評価する取り組みです。
ここで評価しているのがInformation Gain、すなわちAIが1回の検証によって、新しい判断材料をどの程度得られたかです。
実案件ログのうち1ケースでは、次の結果を確認しました。
- Verification records
- 50
- PROGRESS + REVALIDATION
- 48 / 50
- STAGNATION
- 0
- Evidence Novelty
- 97.3%
このケースでは、50件の検証記録のうち37件がEvidenceを伴っており、そのうち36件が重複しない新しいEvidenceでした。Evidence Noveltyは97.3%です。
外形的には同じような検証を繰り返しているように見えても、新しいEvidenceを取得し続けている場合があるということです。研究上は、同じExecution Planであることがそのまま停滞を意味するわけではない、という示唆にあたります。今回はこれをUseful Revalidation(有益な再検証)として扱っています。
新しい情報がほとんど増えていない反復をどう扱うか
一方、別の実案件ログ1ケースでは、新しい情報の増え方が小さい区間が含まれていました。事後評価の結果は次のとおりです。
- Verification records
- 17
- PROGRESS
- 5
- LOW_GAIN
- 5
- STAGNATION
- 7
LOW_GAINは新しく得られる情報が少ない状態、STAGNATIONは検証を繰り返しても新しい情報がほとんど増えていない状態を指します。このケースでは、事後評価において、17件中12件をLOW_GAINまたはSTAGNATIONの候補として分類しました。
方針として止めたはずの行動が、実際には続いていた
さらに、実案件ログのうち1ケースでは、検証方針(Strategy/Policy)の上ではRECON――事前の調査にあたる工程――を停止したあとにも、RECONが実行された区間を確認しました。
事後評価では、Strategy上RECONを停止した後にもRECONが実行された12 Roundを、 POLICY_VIOLATION候補として検出しました。POLICY_VIOLATIONとは、Strategy/Policy上避けるべき行動が、実際には実行されている状態を指します。
AIの内部で決めた方針と、実際の実行内容が一致しているかを事後に確認できる、という点が今回の確認事項です。
図3
Information Gain Controllerによる分類
1回の検証で新しい判断材料がどの程度得られたかを評価し、5つの分類へ振り分けます。今回はいずれも、実行が終わったあとのログを対象とした事後評価(Offline Evaluation)です。
- Execution(AIが検証を実行)
- Result(実行結果を取得)
- Information Gain Controller(新しい情報が得られたかを評価)
PROGRESS
新しい判断材料が得られており、検証が前進している状態
そのまま継続(continue)
REVALIDATION
同じような検証に見えても、新しいEvidenceを取得しており、再検証する意味がある状態
許容(allow)
LOW_GAIN
新しく得られる情報が少ない状態
記録して観察(observe)
STAGNATION
検証を繰り返しても新しい情報がほとんど増えていない状態
探索方法の変更を推奨(recommend switch)
POLICY_VIOLATION
Strategy/Policy上は避けるべき行動が、実際には実行されている状態
将来の制御候補(future gate candidate)
今回のPhase 1では、実行が終わったあとのログを対象に分類を行っています。実行中のAIに対して自動的に介入したり、実行を停止・Blockしたりする仕組みは実装していません。分類結果の扱いは、記録・観察・推奨、および将来の制御候補としての整理までです。
Phase 1の受入条件の確認結果
今回の研究では、Information Gain Control Phase 1として、事後評価による分類が想定どおりに機能するかを確認するための受入条件をあらかじめ設定しました。確認結果は次のとおりです。
実案件ログのうち1ケース
同じExecution Planでも新しいEvidenceを取得し続けていた例
- Verification records
- 50
- PROGRESS + REVALIDATION
- 48 / 50
- STAGNATION
- 0
- Evidence Novelty
- 97.3%
別の実案件ログ1ケース
新しい情報の増え方が小さい区間が含まれていた例
- Verification records
- 17
- LOW_GAIN + STAGNATION
- 12 / 17
- STAGNATION
- 7
- POLICY_VIOLATION候補
- 12 Round
Information Gain Control Phase 1
研究上の受入条件:PASS
これはCyber AIの性能合格を意味するものではなく、今回設定したInformation Gain Control Phase 1の研究上の受入条件を満たしたことを示します。
すなわち今回確認したのは、実行が終わったあとのログに対して、有益な再検証と、新しい情報がほとんど増えていない反復とを区別できる、というところまでです。この分類が実行中のAIに対しても妥当かどうかは、今後の研究で評価します。
本リリースで用いる用語
- Harness
- AIとTool、評価環境をつなぎ、実行を制御する仕組み。
- Execution Path
- 対象ソフトウェアのどの処理経路を通って問題が発生するかを整理したもの。
- Root Cause
- 問題が発生する根本原因。
- Patch Differential
- 脆弱性を含む版と修正済みの版のコード差分から、問題の原因や成立条件を絞り込む分析。
- Trigger Hypothesis
- 問題を再現するために必要な条件についての仮説。
- Information Gain
- AIが1回の検証によって、新しい判断材料をどの程度得られたか。
- Useful Revalidation
- 同じような検証に見えても、新しいEvidenceを取得しており、再検証する意味がある状態。
- LOW_GAIN
- 新しく得られる情報が少ない状態。
- STAGNATION
- 検証を繰り返しても新しい情報がほとんど増えていない状態。
- POLICY_VIOLATION
- Strategy/Policy上避けるべき行動が、実際には実行されている状態。
今回の検証で確認できたこと・確認できていないこと
SecureBankでは、研究段階の発表において「確認できたこと」と「確認できていないこと」を明確に区別する方針としています。今回の検証結果は次のとおりです。
確認できたこと
- CyberGymの1課題で、攻撃推論チェーンから脆弱性の再現まで到達したこと
- 実案件ログのうち1ケースで、Evidence Novelty 97.3%を確認したこと
- 別の実案件ログ1ケースで、LOW_GAIN/STAGNATION候補を抽出したこと
- Strategy上の方針と実際のExecutionの不一致を、12 RoundでPOLICY_VIOLATION候補として検出したこと
- 今回設定したInformation Gain Control Phase 1の研究上のAcceptance条件を満たしたこと
確認できていないこと
- Control Layer導入による成功率改善
- CyberGym全体の課題解決率改善
- 多数課題における再現性
- 実運用中のAIへの自動介入の有効性
- AIによる自動的なStagnation回避
- Cost削減効果
- Token削減効果
- Tool実行回数削減効果
- Base ModelとFine-tuned Modelの性能差
- Cyber能力そのものの向上
- 完全自律型Cyber AIの実現
第1弾から一貫して、SecureBankは機能実装や分類を行った事実だけをもって性能向上を主張せず、客観的な評価結果が得られた段階で公表する方針を継続します。
今後の展開
今回のPhase 1は、実行が終わったあとのログを対象とした事後評価です。今後は、次の段階を研究計画として想定しています。
- Phase 1 Offline Evaluation(今回)
- Phase 2 Shadow Mode
- Phase 3 Soft Intervention
- Phase 4 Hard Gate
Phase 2 ― Shadow Mode
Control Layerは判定のみを行い、実際のExecutionには介入しません。PROGRESS、REVALIDATION、LOW_GAIN、STAGNATION、POLICY_VIOLATIONの判定が、実行中のAIに対してどの程度妥当かを評価することを目的とします。
Phase 3 ― Soft Intervention
STAGNATION等を検出した場合に、Toolの変更、Strategyの変更、別の探索方法などを推奨します。ただし、AIのExecutionを強制的に停止することはしません。
Phase 4 ― Hard Gate
十分な検証結果が得られた場合に限り、明確なPolicy Violationや、新しい情報を生まない再試行などに対する実行制御を検討します。
今後評価する定量指標
今後は、CyberGymの評価対象を拡大したうえで、次の指標を記録し、Information Gain Control導入前後で比較する研究を進める予定です。
- 成功率
- 試行回数
- LLM Token使用量
- Tool実行回数
- 実行時間
- LOW_GAIN率
- STAGNATION率
- Useful Revalidation率
- Policy Violation率
共同研究・共同開発について
Cyber AIの研究には、攻撃側の技術、AIそのものの技術、計算基盤、評価手法、実データなど、複数領域の知見が必要です。
- Offensive Security
- Penetration Testing
- AI/LLM
- Cyber Security Products
- GPU/AI Infrastructure
- Cyber Security Research/Evaluation
- 実案件データ
- Dataset
- Agent/Harness/Control Layer
SecureBankでは、本研究を自社のみで完結させるのではなく、Offensive Security、AI/LLM、GPU/AI Infrastructure、Cyber Security Research等の各領域に強みを持つ企業・セキュリティベンダー・AI企業・インフラ事業者・大学・研究機関との共同研究・共同開発、および技術的な情報交換を積極的に検討しています。
現時点で特定の企業・機関との提携が決定している事実はありません。ご関心をお持ちの方は、お問い合わせ窓口よりご連絡ください。
セキュア・バンク株式会社について
セキュア・バンク株式会社は、日本エンタープライズ株式会社のグループ会社として、サイバーセキュリティ領域における各種サービス・技術開発に取り組んでいます。
AI技術の進展を踏まえ、従来型のサイバーセキュリティサービスに加え、AIを活用したセキュリティ技術の研究開発を推進していきます。
